ニュートンのゆりかごの不思議
皆さんは「ニュートンのゆりかご(Newton's cradle)」を知っていますか?
名前を聞いてもぱっとこない方もいるかも知れませんが,一度は見たことがあるはずだ.
あの物理のときに見たカチカチいうやつ.
これを見たときに不思議に思いませんか?私は不思議に思った.
例えば左端の1つの鉄球を持ち上げ離すと,一番遠い右端の1つの鉄球が跳ね上がる.
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また,左端の2つの鉄球を持ち上げて離した時はどうだろうか.
この時は一番遠くにある2つの鉄球が跳ね上がることになる.
不思議に思わないだろうか.
確かに中学校で習った運動量保存則より,外部からの力が加わらない限り,運動量(質量と速度の積)は保存される.
また力学的エネルギー保存則より,力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は保存される.
ニュートンのゆりかごでは,鉄球を手から離した後には外部からの力が加わらないので,運動量は保存されるべきである.
そして,左端の1つを持ち上げ離した場合,2つ持ち上げ離した場合,それぞれ反対側の1つ,2つの鉄球が同じ速度で打ち上がる.
このことから確かに運動量も保存されているし,力学的エネルギーも保存されていることがわかる.
しかし,この動作をはじめて見た時になにか違和感があったはずだ.
私もその一人でなぜ,反対端の玉だけが一瞬で打ち上がるのだろうと感じた.
例えば日常では,人の列の一番うしろの人に,人が一人ぶつかっても,列の反対側の一人だけが飛び出していくことはないだろう.
そのような経験から,ニュートンのゆりかごにおいても左端の1つの鉄球を持ち上げ離した時,反対端の2つの鉄球が半分の高さだけ,打ち上げられてもよいのではないかと感じる.
同様に2つの鉄球を持ち上げて離した時,反対端の1つの鉄球が二倍の速さで打ち上げられてもよいような気がする.
しかし実際はそのようなことは起こらない.なぜだろう.
もし反対側の鉄球が2つ半分の速さで打ち上げられたとすると,質量$2m^{}$のものが速度$\frac{1}{2}v^{}$で打ち上げられることになる.
ここで運動量,力学的エネルギーを計算すると,それぞれ
$2m \cdot \frac{1}{2}v = mv$,
$\frac{1}{2} \cdot 2m \cdot (\frac{1}{2}v)^2 = \frac{1}{4}mv^2$
になる.
運動量は保存されているが,力学的エネルギーが保存されていないことになってしまう.
だから,左端の一つを持ち上げて離すと反対端の一つだけが打ち上がる.
また,持ち上げられた左端の鉄球が次の鉄球にぶつかった瞬間に反対端の鉄球が打ち上げられているように見える.
これは実は簡単な話で,鉄球を伝わる衝撃の速さが音速であるため,我々人間の目には一瞬で伝わったように見えているのだ.